Scribble at 2024-03-13 08:43:25 Last modified: 2024-03-15 07:24:56

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大阪の中小零細企業で、デザイン専任でもない事務屋のオヤジが申し上げるのも心苦しいのだが、たとえばトヨタの会社案内とかを見ても唖然とするんだよね、最近は。これ数日で作ったんですか、みたいなクォリティにしか思えないんだよ。ちなみに、僕は自社の会社案内を数日で作ってるが、それは僕が有能だからという理由もあるが、トヨタに比べたらコンテンツも利害関係も考慮するべき複雑さが少ないからだ。トヨタのコンテンツであれば、僕ですら1週間や2週間で作れるものではない。とはいえ、2016年度版だから古いと言えば古いんだけど、僕なら20年前ですら上のようなものに比べたら少しはマシな版下を作れたという自負がある。

まず状況説明だけしておくと、会社案内に経営陣のメッセージを掲載する会社と、全く掲載しない会社があって、外資系(つまり海外の企業)は経営陣のメッセージを掲載しない事例が多い。日本では「経営理念」というものを過大評価する傾向があり、これこそ日本で結果論しか言えない無能な経営学者どもが調べたら一つの成果になるのに、とにかく経営理念がなければいけないとか、経営理念を社内や社外にステートメントとして公表することが経営陣の責任であるかのように思い込んでいる人が多い。でも、しょせん資本主義社会において会社は株主が支配しており、経営陣はいくらでも代わるというのが常識であるから、外資系企業の人事を見ていたら分かるように、2年や3年くらいでいなくなる人物の理念なんてどうでもいいのだ。そんな御託を考えたりタイプする暇があったら本来の仕事をしろというのが株主や従業員の本音だろう。他方で、もちろん経営者がアホではいけないのだから、どういう人物なのかが分かる情報として経営理念は考案してもいいし、会社案内に掲載してもいい。特に未上場の企業は実質的に経営陣がそのまま会社の主要株主であり支配者でもあるから、なおさらだ。

もちろん豊田章男氏がどういう経営理念や方針や判断基準をもつのかは、トヨタのようなスケールの超がつく大企業ともなると、このていどの数行の文章を語られたところで何を推し量ればいいのか難しい。それゆえ、別の意味で「あってもなくてもいい」ものになってしまうわけだが、やはり個人としてステートメントを出したいという方もおられるだろうし、それを敢えて止める必要はないわけである。もはやこれは趣味の問題だと言ってもいい。でも、いくら趣味のような問題だとは言っても、上記のような扱いはどうなんだろうと思ってしまう。

ともかくも第一に、一つのページ、一つの画面に複数の目的をもつコンテンツを混在させることは好ましくない。雑誌のように紙面が限られているか、個々のコンテンツに重要性がない場合は、奥付と「編集後記」と「次号予告」などを一つの紙面に混在させることはあろうし、もちろん新聞のように(紙面の視覚的な範囲がまずもって広いという理由もあって)重要なコンテンツどうしでも記事と広告を混在させることもあろう。しかし、上のように代表者のメッセージと目次と、それから右下のよくわからないイラストを同じキャンバスへ押し込めるような必要がどこにあるのか。

そして第二に、代表者のメッセージを掲載する版面として、僕には質素やシンプルという言葉よりも貧弱という印象しかない。余白や書体などを工夫した(必ずしも minimalism というわけではない)シンプルで洗練された印象のデザインというものとは、これは全く違う。単にショボいだけのデザインでしかない。トヨタのようなスケールの大企業で社内に専任のデザイナーがいないとは思えないのだが、これでは場末の印刷屋で働いているチラシの DTP デザイナーの方が有能だと思う。

ついでに細かいことを言っておくと、上の画像のような紙面がどうしてまともなレベルのデザイナーによる仕事ではないのかというと、たとえば文字を配置するポリシーが一貫してないということがすぐに分かるからだ。細かいのでプロでないと気づきにくいが、豊田章男氏の肩書をごらんいただくと、お名前の左に下寄せで配置してある。なのに、右下のイラストをご覧いただくと、項目ごとに囲まれたタイトルと説明を見ると、左に配置されているタイトルが上下の中央寄せになっている。これは僕らのようなレベルのデザイナーからすれば、後から右下のイラストを借りてきて置いただけか、あるいは一緒に作ったコンテンツなのに文字の配置のポリシーがないかのどちらかだ。そして、どちらにせよ、これでは紙面の設計として一貫性がないわけである。

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