Scribble at 2024-03-18 09:37:22 Last modified: 2024-03-18 10:12:56

添付画像

BtoB企業のWEBサイトは、営業活動を行うのに、欠かせないツールです。制作・リニューアルするにあたり、ポイントにすべき点がわからない方も多いのではないでしょうか。WEBサイトには、企業情報、投資家向け情報提供(IR)、商品やサービスの情報、採用情報、サービス購入ページ、資料ダウンロード、アフターサービス、お問い合わせなど、集客、販売促進、採用、顧客サポートに対応できるように構成します。

【最新版 2023ランキング】BtoBサイト制作のポイントと参考事例

原則の話は分かるが、大多数の中小企業で自社のコーポレート・サイトを制作したり手直ししたいと思っている方々には、こういうコンテンツを参考にするときの注意点を書いておこう。はっきり言えば、このページで解説されているのは上場企業や大企業向けの設計・デザインであり、大半の中小企業には不適切であるか逆効果になるようなことが書かれているので、鵜呑みにしないほうがいい。

まず、この記事ではそもそも「BtoBサイト」の意味が曖昧だし定義されてもいないので、採用サイトのように就職希望者がアクセスするような、明らかにコーポレート・サイトなどとは運営目的もデザインの原則も異なるようなサイトを「BtoBサイト」として紹介している。つまり、この記事の筆者は「BtoBサイト」とは何であるかを考えてもいないということが分かる。それに、そもそも「BtoBサイト」なんて表現は和製英語であるということも知らないのだろう。たとえば、Salesforce.com では日本語ページなら「BtoB」という言葉が使われているけれど、英語版では1例もヒットしない。Google Trends でアメリカを対象として "BtoB" と "B2B" の検索数を比較しても一目瞭然だ。これは英語の abbreviation を作るときの文法を考えたら当たり前のことであり、誰に教わったのか知らないが、いまでは英語の授業が始まった小学生にすら笑われるような無知無教養と言ってよい。

それから「IRサイト(株主)」などを「BtoBサイト」と言っているが、これもおかしな話である。相当な規模の大企業であっても、株主向けのサイトを別に作ったり運営しているなんて事例は殆どないからだ。下層のサブ・コンテンツやサブ・ドメインを使った別仕様のサイトというならともかく、「B2Bサイト」の1種類としてコーポレート・サイトと並列に分類するのは非常識というものである。それに、大多数の中小企業にとって(いや上場していなければ大企業ですら)IR など関係がないコンテンツである(実質的に、経営陣=株主だからだ)。どのみちならステークホルダー向けのコンテンツを整備する方が多くの企業にとっては有効かもしれない(日本では「ステークホルダー」を "shareholder"(株主)と混同している人が非常に多いが、ステークホルダーは従業員や会社の周辺住民や事業を管轄する官公庁も含む広い意味がある)。

次に会社情報について。記事では、「複数の事業を展開し、コーポレートサイトとBtoBサイトが別の場合、会社情報は最低限、もしくはコーポレートサイト側に集約することができますが、会社名がサービス名のように単一ブランド構造となっている場合、しっかりと会社情報を掲載する必要が出てきます。」などとトンチンカンなことを書いているが、「コーポレートサイトとBtoBサイトが別の場合~」とはどういう意味なのか。おそらく、サービス・サイトを書き間違えているのだろうが、こういう些細な点からも(校正ができていないという実務的な点も問題はあるが)「BtoBサイト」を正しく理解していないということが分かる。そして、サービス・サイトの名称がコーポレート・サイトや屋号と別の名義やドメインを使っているのか、それともサービス名と社名が同じなのかによって、会社情報の密度を調整するという発想も、おかしな話である。サービスあるいは事業の運営主体として、コーポレート・サイトには法人としての基本的な信頼性を担保する役割があり、会社情報(何度も言うが、これは "corporate profile" ではなく "company facts" というのが正しい英語だ)として最低限の記載事項は同じである。どういう条件だろうと、たとえば法務局に登記されている代表者名や本店所在地が記載されていなければ、その会社もサービスも日本ではたいてい「胡散臭い」と判断されるのだ(海外の場合は、たとえばアメリカだと現実にライフルを持ったキチガイが押し入ってくるというリスクがあるので、所在地を記載しない場合もある)。

それから中小企業のコーポレート・サイトの場合、コンテンツの分量から言って、僕はサイトマップなんてコンテンツにナビゲーションや導線設計を丸投げする発想は、情報アーキテクトとしては失格だと思う(色々な観点からの批評を加えられて気の毒だが、僕は情報アーキテクトという職能としても一定の実績とスキルや見識があるので言わせてもらう)。本来、ユーザビリティの理想は、あらゆるページがコンテンツ全体の中に置かれた役割を理解しやすく伝えていて、他の要求に見合ったコンテンツがあるかどうか、そしてあるならどこにあるかを示すようなアフォーダンスを満たす導線設計になっていることだ。要するに全てのページが同時にトップページでもありサイトマップでもありうるていどの役割を果たすことが望ましいのであって、いつまでも書籍の目次みたいな縄文時代の情報設計やサイト・デザイン、つまりは程度の低い skeuomorphism に拘るのはやめるべきである。また、ウェブの制作を仕事にしているのであれば、グローバル・メニューや「コンテンツ列挙型のフッター」というものが、こういう要求から導入されるようになったという経緯くらいは知っておく必要がある。

あまり色々と言ってもきりがないので、最後にこのページで紹介されている「BtoBサイトランキング 2022」を取り上げておこう。「トライベック・ブランド戦略研究所」なんていう、電通や博報堂の人たちから一度も名前を聞いたことがないようなところが夏休みの自由研究みたいに発表した結果を参照しているようだが、オムロン、三菱電機、キーエンスという、大半の企業が真似もできなければ、僕のようなプロのウェブ・デザイナーなり情報アーキテクトの観点から言えば真似する「べきでもない」と言えるような有名大企業のサイトが紹介されている。もちろん、中小企業はこんなサイトの真似をしてはいけないし、「こんなサイトのようにしてはどうですか?」などと言ってくるインチキな制作会社などに発注してはいけない。

中小企業でこういう大企業のコーポレート・サイトを真似てはいけないという第一の理由は、こういう有名な大企業は既に有名なのであるから、そもそも法人としての信頼性や実在性を訴求する必要がなく、「まともな事業者なのかどうか」という半信半疑な人々に訴えるような情報とかコンテンツを二次的に扱ってもいいからだ。したがって、大企業になればなるほど、会社情報が二階層目や三階層目に隠れてもいいという情報設計になっている。逆に、トヨタのような企業のコーポレート・サイトで、「トヨタは自動車を作っていて、株式を上場している会社です」などとフロント・ページに記載されても、「そんなこと知ってるよ。それよりも僕らは別のことが知りたいんだ」と思われるだけだろう。しかし中小企業の場合はそうはいかない。まともな取引先になるかどうか、インボイスの番号や法人番号を登録しているかどうかすら怪しまれることが多いのだから、最低でも法務局に登記してあるていどの情報をコーポレート・サイトの上位階層へ配置したり、可能な限りの内容をフロント・ページへ記載するのは必須であろうし、それを記載しても多くの企業では反社チェックをしたり、帝国データバンクなどで財務状況を調べたりするのが標準的な実務である。

そして大企業の真似をしてはいけない第二の理由は、これは当サイトでも「実店舗に学ぶ、企業サイトの設計と管理」(https://www.markupdancing.net/archive/20221124-154800.html)というページで解説しているように、大企業だと「企業理念」だとか「経営方針」のようなメッセージをつくって掲載する余裕がある(と思い込んでいる)わけだが、こういうものを企業サイトに掲載するのは、中小企業のサイトへアクセスするビジターの大半の目的を満たしておらず、却って邪魔なものとして扱われるか無視されるので、積極的に制作したり優先して配置するのは逆効果だからだ。そもそも企業を経営するにあたって本当に重要なのは、経営「理念」などではなく、経営「判断」であり、その判断を適宜、正確かつ適正に行うことだ。コーポレート・サイトに掲載するためだけに、そんな理念だとか方針といったものを経営者が作文したり、あれこれのビジネス本を読んでネタにするなどという暇潰しをする余裕は、中小企業には無いはずだ。もちろん、自分が会社を経営したりサービスを提供するにあたって考えていることや大切だと思っていることはあろう。そして、それは何も作文したりコンサルに相談する必要などなく、いま思っていることを素直に(まずはコーポレート・サイトなんかじゃなくて社員や取引先に向かって)表明することの方が効果的だし重要だ。キーエンスやオムロンのように、経営者の声が社員に直接、あるいは簡単には届かせられない業容であり、その場で言い間違えを改めたりするような機会がなければ、慎重に作文したりコーポレート・サイトに掲げる方がいい場合もあろうが、大半の企業において経営陣と従業員との関係、それから企業と取引相手との関係は、そういうものではあるまい。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook