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『講座 日本の考古学 8 古墳時代(下)』(広瀬和雄・和田晴吾/編、青木書店、2012)

以前も紹介したように、河出書房新社から1966年に出ていた『日本の考古学 V 古墳時代(下)』から半世紀近くを経て出版されたのが本書であり、内容として半世紀近くの蓄積を反映させているだけではなく、分量としても増えている。そのせいで、河出書房版は1冊が2,000円ていどだったが、青木書房版は1冊が8,000円になっていて、これではいくらなんでも小学生の小遣いで買うのは無理である。ただ、内容は十分に買い求める価値がある。

特に、あらためて古墳時代の著作物を色々と読んでいると、藤沢 敦氏が「住居と集落」(pp.297-323)で指摘するように(ちなみに、連番のタイプ・ミスだとは思うが、この論説には第二節が欠落している。それから、和島誠一氏の「原始聚落の構成」が発表された『日本歴史学講座』は学生社ではなく学生書房の発行だ。あと、論説の終わりあたりで和島氏の名字が「輪島」と書いてある)、古墳時代の集落については研究が進んでいないという印象が(藤沢氏が指摘した2012年から10年が過ぎたいまでも)ある。せいぜい、若狭 徹『改訂版 古墳時代の地域社会復元 三ツ寺1遺跡』(シリーズ「遺跡を学ぶ」003、新泉社、2023)や岩永省三/編『古墳時代の親族と地域社会』(市民の考古学 18、同成社、2023)を書店で見かけるくらいだ。それ以外は、はっきり言って古墳時代の著作物は極端に偏っており、敢えて言えば古墳の無内容な通俗本か、あるいは古代政権についてのファンタジーくらいしかない。もちろん、他にもあるにはあるが、とても個人で買い揃えられないような、殆ど自費出版に近い価格設定の研究書ばかりだ。そもそも、藤沢氏が論説の中で大きく取り上げている、群馬県の黒井峯遺跡や西組遺跡の発掘調査報告書にしてから、古書ですら流通しておらず、図書館でも一部の大学図書館にしかないようだ。これでは、いくら重要だと言われたところで情報にアクセスしようがないのだから、論説の内容について評価しようがない。

結局、とりわけ古代史の物書きが殆ど自分で古文書を読むことなく遺跡に足を運んだり発掘の調査報告書すら読まずに数々の妄想を「古代史の真実」だの「謎の古代史」だのとアホみたいな本ばかり書いている原因を、考古学者の怠慢と地方行政の情報公開に関する秘匿主義が作り出しているのだ。正直言って、遺跡の調査報告書なんて税金で作成していればなおさら、全て無償で PDF にして公開するのが筋というものであろう。あれは、僕の考古学の恩師らもたびたび口にしていたことだが、ああした報告書を出版している業者との癒着による「官製の非効率」や「官製の情報秘匿」でしかないのだ。

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