Scribble at 2024-01-04 20:25:25 Last modified: unmodified

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もう Amazon.co.jp を利用し始めて20年以上が過ぎている。主に洋書を安く、速く手に入れるという点で、実に便利なサービスだ。これは、色々と問題はあるにしても、ありがたいことだ。おおよそ僕が Amazon.co.jp で手に入れた洋書の半分以上は、定価の半額以下で売られていた古本だったし、配送される日数もせいぜい長くて1ヶ月ていどだ。これは、いままで京都の洋書店で定価(の為替レートで換算した日本円)で購入したり、注文しても手に入るまで1年もかかっていた(Galen Strawson の The Secret Connexion というハード・カバーの本は注文して1年後に入手できた)ことに比べたら劇的な変化だ。ちょうどウェブ・アプリケーションの開発やサーバ構築などの仕事に携わるようになって Amazon.co.jp を利用し始めたのだから、もし Amazon.co.jp がなくて技術書を手に入れるまで1年もかかるということでは、もしかすると手に入ったときは既に時代遅れになっていたなんてことにもなりかねない。いや、他にもオンラインで洋書を購入できるサービスはあるわけだが、紀伊國屋や丸善のレートでは、いまある蔵書の半分も手に入らなかっただろう。値段が高すぎるからだ。そういうわけで、僕はオンラインの書店、なかんずくアマゾンには多くの恩恵を受けている一人であり、その裏にどういう問題があるにしても事実として便利に利用させてもらったという点は変わらない。

しかし、それでも僕は、なるべく実店舗を利用して本を買うべきだと思う。その最大の理由は、実に簡単なことだ。僕らは、自分がどういう本を読みたいか、どういう本を読むべきか、前もって正確に検索するだけの知識や情報をもっていないし、オンライン・サービスも消費者の検索に十分対応できるだけのデータを入力していないし、それどころか多くの書誌情報は間違っていたり、デタラメな分類が行われているからだ(もちろん実店舗でも、いまだに JavaScript の本を Java の棚に置いてる事例もあるが)。いずれにしても、僕ら自身の知識や情報不足と、オンライン・サービスの分類間違いや入力情報の不足という双方の理由があって、オンラインの書店ではカテゴリーのリストを漫然と眺めているだけであっても、ロクに満足のゆくウィンドウ・ショッピングにはなっていないのである。これは、実店舗でブラブラしていて本棚を眺めることに比べれば、遥かに無駄な時間と労力と電気代の浪費だと言える。そして、このようなオンライン書店の欠陥は、実は原理的に改善不能なのである。

僕らは強い自覚があるかどうかはともかく、或る動機や目的をもって書店で本棚を物色していたりするのだが、実はどういうキーワードが僕らの興味や好奇心を引き起こすのか、僕らは自分でも前もって分からないことが多い。そして、そのキーワードが本のタイトルや帯コメントに使われているとは限らないのである。それでも、僕らは書店で見かけた或る範囲の本棚に並んでいる本を眺めて、関係がありそうかどうかを手当たり次第に試すことができる。

だがオンライン書店では、そういうカテゴリーを指定した串刺しの検索ができるようでできないのである。そして、これからは AI を活用してキーワードどうしの関連性を参考にして検索結果を出すということもやるようになるのだとは思うけれど、そのためには1冊ごとに AI へ学習させなくてはいけないキーワードの量が少なすぎるという問題がある。出版社が提供するセールス文章(だいたい原稿用紙1枚ていど)では、そこから抽出できるキーワードの数が少なすぎるのだ。もし可能であれば、本文のテキストそのものをトレーニング用のデータとして使えることが望ましいのだが、それはいまのところ著作権の保護という理由で無理だろう。

でも、実店舗では的確な書籍が見つからなくても、たまたま周囲で見かけた面白そうな本を別の脈絡で買う気になるという場合もある。これは、もちろんオンライン書店でも recommendation の色々なモデルを応用して実現しているのだが、推薦のアルゴリズムがどれほど向上しても、これはだめである。やはりさきほど同じ理由で、入力データ(トレーニング・データ)が少なすぎるからだ。推薦アルゴリズムは、全く入力のないところから適当な本を推薦するなんていう、バーテンダーみたいなものではない。やはり、基礎になるデータが不足していれば、どれほどアルゴリズムが高度に洗練されようと、絶対に超えられない限界というものがある。

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