Scribble at 2023-08-02 21:34:48 Last modified: 2023-08-02 23:34:29
いまだに書店に並んでいる本なのだが、『GRIT』という青い本を自己啓発の棚で見かけた人がいることだろう。一読した方もいるとは思う。ちなみに、僕はここで話題になっている「天才」助成金を受けたダックワースが書いた本と奇妙にも同時期に発売された、二人の女性が書いた『GRIT』という同名の別の本を読んだことがある。そして、もちろんどちらも内容は殆ど同じだ。つまり、「根性があればなんでもできる」という、昭和のオッサンみたいなあけすけな精神論である。それを、ハーヴァード大学の「天才」教授が主張しているというのだから、「ハーヴァード」とか「ソルボンヌ」とか「オクスフォード」という名前に弱い東大学卒の左翼が出版業界を席巻している東アジアの文化的辺境国家においては、せっせと出版して話題としないわけにはいかない。
でも、そんな簡単なことがあるものかと思うのが常識というものでもあろう。ウクライナは根性でロシアに勝てるだろうか。あなたの会社は根性で上場できるだろうか。あなたは根性で部長になれるだろうか。あなたは根性で東大に合格できるだろうか。あなたの息子に根性をたたき込めば慶応幼稚舎に入れるのだろうか・・・そんなことあるわけない。なぜなら、欲望だろうと清い動機があろうと、世の中には根性のあるなしにかかわらず、根性で人が何かをするのと変わらないくらいの努力を傾けて、根性で人が何かをするのと変わらないくらいの時間をかけている人が、既にたくさんいるからだ。あなたが根性で12時間の営業をやっても、根性など関係なく12時間の営業をやるひとはたくさんいるのである。つまり、凡人が根性なんてものでやることは、同じように他の凡人が根性とは関係なしに(惰性や、あるいは属人的な能力で)やることと大差ない。
よって、ここから分かるように、根性なんてものは成功した人物が適当に成功した原因を「創作」するときの後知恵にすぎず、こういう議論の大半は結果論(生存バイアスの誤謬)なのである。