Scribble at 2024-02-05 17:48:11 Last modified: 2024-02-05 21:03:02

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磁石は一定以上の温度になると磁気的に柔らかくなることが知られているので、書き込むときだけ加熱して冷やして元通り固くするというアイディアがありました。これがHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording、熱アシスト磁気記録)と呼ばれる技術で、「次世代のHDDはHAMR」と言われていながらも、実用化にはかなりの年月がかかりました。

20年の研究を経て、ついに熱アシスト記録HDD登場。さらなる高密度化も見据えたSeagate Mozaicプラットフォーム

HDD の新しい技術が実用化されたようだ。プラッタあたり 3 TB からということで、標準的な製品でも 30 TB なんていう大容量の HDD がリリースされるらしい。もちろん、そのターゲットはサーバ会社や、大量のデータを保管するオンライン・サービスの企業であろう。ただ、個人であっても毎日のように動画を撮影したり収集しているような方、それから最近だと専用のパソコンで生成 AI が吐き出した画像や動画や曲などを保管している方も、こういう商品には関心がある筈だ。そろそろ、大手のクラウド・ストレージ・サービスでは、競うように提供してきた「容量無制限」のプランをキャンセルし始めているため、一定のコストでクラウド・ストレージに幾らでもファイルを溜め込めるというわけにもいかなくなる可能性があるし、いざ容量が制限されるとなっても、既に他へ移しようがないという困ったことになる可能性だってある。実際、ジャーナリストが容量を制限されてしまい、物理的に既存のファイルを他へ移したりコピーすることが不可能な状況で困っているという記事も見かけた。

これほど極端な事例は別としても、個人がファイルをクラウド・サービスに預けておいて、いざサービスがなくなるとか容量が減らされるというときに、1週間や数日ていどの猶予しかないなら、他のサービスなりローカルへ移せる現実的な容量は、せいぜい数テラバイトであろう。そして僕自身が扱っているリソースを考えても、いま自宅の NAS に保管している大量の PDF や音楽ファイルなどを合計しても、1 TB に満たないのである。その中には、あの有名な「Springer 祭り」でダウンロードした、大量の雑誌論文(SyntheseERKENNTNIS といった科学哲学の学術誌のバックナンバーを全て根こそぎダウンロードした)も含まれるし、おおよそ10年以上にわたって Firefox の Scrapbook というプラグインでダウンロードした、これまた大量のウェブ・ページも含まれている(「Springer 祭り」でダウンロードした論文は、このプラグインを使っている)。また音楽ファイルも、クラシックやジャズなど1個で数十分の演奏時間になるような作品が何千曲と MP3 や flac 形式で保存してある。こうしたものを全て集めても、せいぜい 1 TB もあればアーカイブできてしまう。僕が当サイトで公開している論説とか、あるいはこの落書きのバックナンバーなんて、テキスト・ファイルとして全て集めたところで、実際には 100 MB にすらならない。これから平均寿命くらいまで生きて何か書き続けるとしても、たぶん 1 GB になんてならないはずだ。個人として運用しているファイルの容量なんて、こんなものである。なので、個人としては、あと残りの人生で溜め込むファイルの容量を多く見積もっても、せいぜい 5 TB もあれば十分だと思う。

なので、個人のデータなんて別に他人と共有する必要もなければ義務もないわけだし、しょせん自分が死んでしまえば消し去られてもいいものだ。残された人が利用したいと思うなら勝手にすればいいが、少なくとも生きているあいだの僕にとっては、僕が必要なだけのストレージさえあればいいわけなので、前段までの理屈からすれば、自宅に安定した(つまりデータが吹っ飛んでもリカバリーできる)データの保管装置があるならいいということになる。もちろん、クラウド・ストレージにファイルを置く理由もあろう。自宅だけでなく他の場所でもファイルにアクセスしたい(しかし自宅のマシンにリモート・デスクトップなんかでアクセスしたくない)とか、そもそも自宅に大容量の記録装置を持っていても故障や天災などによるデータの破損が怖いとか、そもそも家族にアクセスされる余地を残したくない、エロビデオを貯め込んでるおとーさんとか。何にせよ、いまのところはクラウド・ストレージを使う人がいるし、それにはそれなりの事情がある(おとーさんの事情はどうでもいいが)。

ただ、自宅ではなくクラウド(他人のところ)だから安全かというと、今度は別のリスクがある。Google Drive なんて、実際にはしょっちゅうデータが事故で消えてるというし、サービス全体としての故障率が低くても、それは分母が非常に大きいからであって、事故の件数そのものは多いのだから、その中に自分のデータが含まれてもおかしくはない。また、現実にはクラウド・ストレージにデータを預けたら、まずそのデータは確実に運営会社にスキャンされる(そして、もちろんおとーさんの見ているエロビデオがブラジルとかロシアの胡散臭いサイトからダウンロードした違法なものであれば、通報される可能性がある)。

そういう話はともかくとして、この情報なりデータを生み出し、伝送し、記録し、利用し、複製したりバックアップしたり別の媒体へ記録し直す、それからライフサイクルという意味では最後に抹消するということも含めて、単位量あたりのコストというものは、記録については確かにどんどん高密度で記録する技術が登場しているけれど、それ以外については頭打ちの感があるし、そもそも Wi-Fi なんかは 5G の恩恵なんて大半の人にはないだろうと思う。だって、外出して何か映像を観るとしても、バッファリングできるだけのスピードさえ確保できていれば映像を観るのに問題はないわけであって、4G だろうと 5G だろうと転送速度なんていくら速くてもしょうがない(通信速度が倍になったからといって、映像を倍の速度で観るわけではないからだ)。結局、転送速度が速いと待ち行列の理屈から言って処理が早く終るという想定でスピードの話をしているわけだけど、そんなもん ISP やサーバ側やクライアント側の機器のスペックによって条件なんて幾らでも変わるのだ。そして、やはり本当にスペックが上がっていかないといけないのは、もちろん最初、つまり情報やデータを生み出すところだ。でも、サーバのログじゃあるまいし、重要なデータや情報なんて、そう簡単にザクザクと増えるものでもないし、生成 AI が代わりに増やしてくれるわけでもない。それが使える情報やデータであるかどうかを、結局は人が判断しないといけないからだ。中国人やロシア人が量産してる、奇妙な日本語で書かれたパソコン情報のブログ記事みたいなわけにはいかないのである。

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