Scribble at 2024-06-27 10:52:27 Last modified: unmodified

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Structured logs are the way to start (shippingbytes.com)

ウェブサイトやオンライン・サービスの運用というものは、これまで何度か強調してきたように、一つの事業所の運営でもあり、あるいはライフ・サイクルというものをもつ一つのプロダクトの管理でもある。したがって、それが商用で運営されたり運用されているからには、マーケティングというコンセプトを抜きにしてはいけない。

これも繰り返して言っていることだが、日本ではわざと「マーケティング」の概念を矮小化していて、殆ど広告宣伝の意味で使っている人が多いけれど、もともとは企画、商品開発、品質管理、在庫管理、ロジスティクス、最終処分、商品展開のクロージング(市場からの撤退)など、ライフサイクル全体を対象とするのがマーケティングであり、実際にアメリカの企業ではマーケティング担当の vice president がプロダクト・マネージャを統括している事例も多々ある。これが日本になると、マーケティング担当の上級副社長がプロダクト・マネージャを統括するというとき、それは単に商品をどうやって宣伝して売っていくかということしか考えていない意味になってしまうし、実際に日本のマーケティング担当副社長なんてそのていどの知見やモチベーションしかあるまいと思う。

ともあれ、商用サイトの運営がマーケティングに関わるという点に問題がないとすると、まず最初に自分たちがやっていることの是非を現状として把握するには、データが必要である。そして、それはまず何よりもサイトのアクセス・ログを解析することでしかない。サイトのユーザに、何かのキャンペーンを展開してアンケートをとるなんていうのは、実はサービスの検証とか市場調査としては下の下と言ってもいい手法だ。実はアンケートから利用者の実態を的確に推定できる人なんて、社会調査や統計学や心理学の専門家にも殆どいないと言って良い。アンケートというものは、結果が(いわばアホにも)わかりやすく出せるので手軽に実施されるのだが、それほど扱いが難しいのであって、安易に実施されているわりには大して有効な成果を上げていない手法の典型である。

だが、上のスレッドで紹介されているブログ記事では Apache のアクセス・ログから出発すると書いている。もちろん、20年前なら分からないでもないが、いまやマーケティング用途で取得するユーザのログというものは大半が JavaScript を使ったデータであると言って良い(もちろん、そういう仕方で情報を取得するにあたってはオプト・インを求める必要があり、とりわけ EU 圏からの利用者には GDPR という強力な規制がある)。なぜなら、これは Apache のログだけを使っていた20年前でも分かっていたので、Cookie を使うようになったという経緯があるわけだが、企業の社内 LAN からアクセスしてくるビジターはアクセス元の IP アドレスが同じだったり、企業では使うブラウザや設定が決まっているから UA 文字列も同一だったりして、異なる利用者がアクセスしていても区別できないことがあるからだ。利用者ごとの解析が目的であるからには、こういう致命的な問題が残る Apache のログだけでは不十分である。

そして、これもウェブ・コンテンツに関するネットワーク通信のシステムを理解していれば分かるように、リクエストとレスポンスの対応だけからなるステートレスなシステムでは、ユーザの遷移状態をトレースするのが困難だし、そもそもページでの滞留状況は全く分からない。検索エンジンから直に特定のページへアクセスしてきたビジターが、そのページを眺めるだけでタブやウィンドウを閉じてしまった場合に、そのビジターがページをどれだけのあいだ見ていたのかは、Apache のログではわからないのだ。そうしたことは、JavaScript で onunload() などのイベントを使って検知したり、あるいは一定の時間ごとにダミーのアクセスをサーバへ送り続けて記録にしていくしかないのだ。

もちろん、そうした手法の是非という問題はあるにしても、いまどき Apache のログから始めるなんていう発想は、JavaScript の杜撰な利用に警告を発している僕から見ても、時代遅れも甚だしいという印象がある。

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