Scribble at 2024-04-27 23:49:28 Last modified: 2024-04-27 23:56:57

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小林慎太郎, 芦田萌子, 伊藤大紀/編『プライバシーテックのすべて-入門から活用まで』(中央経済社、2024)

PET の概説である。現行の技術やサービスにどういうものがあるか、簡単にキーワードだけでも知っておきたいという方には良い資料となるだろうとは思う。でも、プライバシーマークの認定事業者で chief privacy officer を拝命している実務家として言えば、お勧めしない。特に、僕のように secret sharing なり differential privacy について Cryptology ePrint Archive や arXiv の論文を検索してまで読んでるような人には、はっきり言って概略の参考にすらならないと思う。記述があまりにも雑だからだ。

実際、「差分プライバシー」については、わずか5ページていどしか割かれておらず、その中で式が一つだけ示されているだけだ。中川裕志氏の『プライバシー保護入門: 法制度と数理的基礎』(勁草書房、2016)の方が遥かに丁寧に解説されている。正直なところ、アップルが(いつものように)他社の成果を掠め取って、われこそは差分プライバシーのイヴァンジェリスト・体現者なりなどと傲慢にキャンペーンを展開していた頃から数えても7年近くが経過するわけで、そのあいだに国内だろうと海外だろうと、PET の概説書で解説の技量として殆ど進展や洗練がなかったことからして、数ページで「かんたんに」説明することなど不可能な領域の話題なのだ。よって、上記のようなビジネス書の体裁で導入できる話でもなく、もっと企業人として優先するべきガバナンスや監査の視点にシフトする方がいいだろうと思う。とはいえ、著者のグループは NRI なので、どのみち上場企業や官公庁案件しか眼中にないだろうから、そういうサービスの受益者としての中小企業やエンド・ユーザの権益など知ったことではあるまい。総務省から何億円を引きずり出すための美しくて難解な企画書を書けるかどうかが勝負なのであろうから、相手がわかろうとわかるまいと、どうでもいいのだろう。

うちのビルにも NRI の関西支社が入ってるから、エレベーターで遭遇するかもしれんので辛辣なことは言いたくないのだが・・・崎村さん、どうにかならんかね。

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