いわゆる「歩きスマホ」を抑制する

Takayuki Kawamoto

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First appeared: 2018-01-23 21:56:37.

とにかく最近は携帯を眺めながらボサッと歩いている人が多くなって、通勤時間帯ですら人の流れが多くの場所で滞留することが増えた。ただでさえ大阪の勤め人は歩くのが遅いのに、いきなり立ち止まって画面を眺めこんだり高齢者よりも遅く歩きながらゲームに熱中するといった人間が増えると、公共交通機関としての効率や快適さは更に下がる。これを「劣化個人主義」だの「低俗自由主義」などと揶揄してもさほど意味はなく、またエゴだとなんのと手軽なレッテルを貼り付けたり投げつけても無益であることは言うまでもない。なぜなら、そういうことを平気で無頓着にやっている人々は、まず第一に非難されているのが自分のことだとは思っていないことが多く(たかが数分ほど眺めていたていどだと思っているのだろうが、他人にとっては数秒だけ通行の邪魔になっても困るのだ)、第二に何を言われようと自分には「仕事」とか「愛」とか(笑)、その手の正当性があり、非難される筋合いはないと思い込んでいるからである。したがって、フールプルーフとフェイルセーフの発想を取り入れてみてはどうかという提案の方が望ましいと思う。このような連中が、たとえば視覚障碍者やベビーカーや高齢者とぶつかって相手を押し倒したりするような事故が、これからも増えていくのは目に見えている。駅や道路といった施設の管理者という観点から言えば相手に危害を加えるリスクも見過ごせないが、彼ら自身にしてもヤクザやゴロツキとぶつかりたくはないだろう。社会を適正に防衛するためには、こういう行為をやろうとしてもやり難くするとか、やっていても大して問題のない環境に作り替えるとか、そういった提案をする方が効果的だ。

では、まずフールプルーフから検討してみよう。これは、適正な利用方法を知らない人や物事の判断力が乏しい人でも使い方を間違えようがないように施設や設備や商品を設計するということなので、初めて使う大人や物事の是非を判断できない子供でも間違えずに使えるというのがおおよその意味だ。もちろん “fool” という単語に「愚か者」という意味はあるが、なにも「バカ対応製品」などと言っているわけではない。さて多くの人が行き交う通路や道路を設計するとして、どのような工夫ができるだろうか。もちろん通行するための場所なので、最初から幾つかの要件は満たしていなくてはならないだろう。たとえば、可能な限りバリアフリーであることや、何の正当かつ法的な根拠もなく通行料のようなものを徴取してははいけないとか、適切な基準を満たしている人間が立って歩ける高さを確保していなくてはならないとか、地下道であれば非常口の有無や通排気口や排水設備の設置も求められるだろう。そうした、常識的に言って建築基準法や各種の条例などを満たす「通路」を想定したとして、更に何を追加すればいいだろうか(必要最低限の要件を満たしている通路を想定するので、逆に何かを取り去るという発想は除外する)。

与件として理解しておきたいのは、歩きスマホをする人は家を出た時から画面をずっと眺めているわけではないということだ。歩いている途中から「歩きスマホ状態」へ移行するのであって、「歩きスマホ人間」がいるわけではない。したがって、通路を歩行している途中から歩きスマホを始め難くするか始められないような工夫が必要なのであって、いっとき話題となった「歩きスマホ専用レーン」などというものは無意味であるし、歩きスマホを禁止するような標識を通路に掲示したところで無意味だ。もちろん、キャリアが公開している「歩きスマホ防止アプリ」など、誰も自らインストールするわけがない。したがって、いきなり携帯を取り出してもどうしようもないという状況にして、携帯を使うことを諦めさせるというのが正しい対策だろう。そうすると、すぐに思いつくのは「通路の周辺でジャミングする」という手法だ。これでメールを受信するとかチャットするとか、通信していなければ進められないゲームをプレイするような人々の行動は抑制できる。もちろん、鉄道会社や地方公共団体は「歩きスマホができない」などというクレームに応じる必要などない。公共交通機関の公共性は通行者の安全性を優先するべきであって、これには法的な責任がある。それに対して、一部の人間がメールを読む「権利」など最初から法律の議論として成立しない。嫌なら、どれほど遠回りでも別の鉄道会社や交通手段を利用すればいいのであって、それを禁止しているわけではないのである。

携帯電波のジャミングについては、既に携帯ジャマーとか 3G/4G の電波に特化した電波信号帯電波妨害機器と呼ばれる商品を個人として使っている人もいて、だいたい 50,000 円ていどのものらしいが、5~20m の範囲でジャミングできるくらいの性能があるため、自分の周囲では携帯で通信したり通話できなくなるという状況は作り出せる。しかし、もちろん過渡期において個人がリスク対策として買って使うのはいいとしても(もちろん!)、迷惑だと思う人だけが対策すればいいというものではない。やはり正式に公共交通機関や地方公共団体が告知して予算を確保して導入するべきものだろう(それに、こういう機器はあらゆる電波を遮断するとやりすぎになるので、3G/4G に特化されており、通信規格が変われば再び買い直す必要がある)。しかしながら、公共交通機関が通信をジャミングすることに法的な問題は全く無いと思うが、問題は恐らく通路の全てにジャミング機器を設置するような予算が確保できるとは思えないという点だ。最近になって鉄道各社が導入するようになったホームドアは、自殺や事故による死傷者を減らすために効果的とされているし、実際に大きな効果があることが実証されている。しかし歩きスマホについては、ぶつかって起きるいざこざは当人同士の問題として鉄道会社は責任を転嫁できるし、飛び込み自殺のように列車が止まって大きな損失が出るわけでもない。それに、歩きスマホによるホームからの転落については、皮肉にもホームドアを設置することが、転落という一点についてだけはフールプルーフになっている。よって、鉄道会社にとっては、スマホの利用を強制的に抑制する対策を選ぶべきインセンティブが(まだ)少ないと思う。(なお、このような施策を「家畜」のようだと批評する人がいて、個人のマナーが向上するように啓発するべきだと言うのだが、そういう理想的な状況へ至るまでに、いったい何人の視覚障碍者が何度こういう馬鹿どもと駅でぶつかればよいのだろうか。我々はいつまでこういう人々の傲慢で杜撰な行動を我慢すればよいのか。特定の政策にコミットできるわけでもなく、どのみちハイヤーで自宅とテレビ局を往復しているだけの芸能人や物書き風情が、公共政策について軽口を叩くのは慎むべきであろう。)

次に、フェイルセーフの観点ではどういう対策が可能だろうか。こちらは、利用方法を間違えてしまっても安全な結果に変えるということだ。利用するのは、先の場合とは違って使い方をよく知っている人でもよい。そして、どういう人であっても間違いは犯すのであるから、そういう場合でも安全に対応できることが望ましい。たとえば、いちばんありふれた事例はサーモスタットを内蔵しているコンロだ。火を消し忘れても、一定時間を越えて一定の温度が維持されていると火が消えるようになっている。我々の大多数は、もちろんコンロの使い方はよく知っているし、それどころか先に説明したような安全装置が付いていることすら知っているだろう。それでも人はうっかりして間違いを犯すことがあるので、そういう場合でも対応できることが望ましいのである。では、ここでの「間違い」とは何だろうか。スマートフォンを持って外出することか、それとも取り出して何らかのアプリを起動して画面を眺めることか、それとも画面を一定以上の時間に渡って眺め続けることなのか。こうした条件を検討して、いったい何が抑制されるべきなのかを具体的かつ詳細に特定しなくてはならない。しかし、では自宅からスマートフォンを持ち出すことが “fail” (failure) だというわけではないし、先行する事象を fail として遮断してはいけないとすると、まさに往来で取り出すこと自体を fail だと考えなくてはならなくなる。往来で取り出したことを fail と考えれば、いったいその行為の結果をどうやって安全に変えられるというのだろうか。すると、歩きスマホについては、そもそもフェイルセーフという考えは適用できないということが分かる。「歩きスマホ」という状況に対処する必要があるときでも、先行する状況には責任がない(家から持って出ようと構わないし、鞄や上着のポケットに入れていること自体は何も責められるようなことではない)。すると、ここでの fail とは往来で取り出して使うことへの無頓着や無分別という思考あるいは心理に求めなくてはならなくなり、その結果を外部から変える方法は、先のフールプルーフ以外にない。つまり、その無分別に対応することがフールプルーフだからだ。

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